クリエイティブ・リソース
資源循環のための素材開発と環境建築への取り組み
私たちは、様々な地域で未利用なまま無駄になっている資源の価値を見出し、地域の技術を利用して新たな材料を製造し、そのための構法・構造を再編・開発した環境建築により資源循環の仕組みをつくる活動を続けている。
今日のグローバル社会が抱えている環境保全の問題に、素材を扱う建築士がどう関わっていくことができるのか。省エネ・断熱なども重要だが、そのための建築をつくるマテリアルフローの影では建設産業は多くの廃材を生み出している。しかし、われわれ建築士はそのマテリアルフローの下流に留まり、都合のいい材料を取捨選択するだけである。環境を未来につなげる建築士の新たな役割として、建築士が上流まで遡って、資源を見つめ直し、わずかながらも資源循環の仕組みをつくり、新しい道筋を照らし出すことができればより建設のサステナビリティを高めていけるはずである。資源の循環によって新たな地域ビジネスが生まれ、地域が活性化されるように未利用資源は地域のつながりを生む媒体にもなりうる。さらには新たな建築を生み出す可能性も持っている。
眠っている資源・棄てられている資源をローカルな範囲で大切にし、持続可能なための創造的な再利用を考えること。リサイクルのためだけでなく、質の高い建築にすることで新たな価値を見出すこと。これが私たちの目指す「クリエイティブ・リソース」である。
以下は、2011年から続けているその活動と建築への実践のレポートです。
資源1 シラス
鹿児島の住宅 1
2011-2013
現状課題
骨材資源の枯渇による代替資源への取組み
日本のコンクリート用骨材は、バブルが崩壊した平成2年をピークに減少を続け、現在では天然骨材の供給量は約1/3まで減少している。これはこれまで大量搾取されてきた川砂利・陸砂利・山砂利・海砂利などの天然骨材資源が全国的に枯渇化した状況が要因となっている。環境破壊の問題からも採取を禁止する県も増え、10年以内には今後の骨材の安定供給が危ぶまれる可能性が出てきている。再生骨材の利用も進むが、砕く際のCO2の増大は否めないため、サステナブルな骨材とはなり得ていない。
本計画では、このような状況下で長期的なビジョンに立ち、鹿児島に現存する骨材資源の状況を解明して、未利用資源としてのシラスを代替活用した建築の可能性を追求している。
技術
ゼロスランプの加圧成型技術
シラスブロックは、全く新しいゼロスランプ加圧成型法により可能となる。従来のセメントと水で混ぜる製法とは全く異なり、シラスとセメントを混ぜ、200tのプレス機で高圧縮することでシラス自体に含まれる水分がにじみ出すことで、シラスとセメントを密着硬化される。この技術は鹿児島のローカルの技術であり、鹿児島市電の軌道敷きブロックにも活かされている。
水無添加・半乾式・緻密化・高強度・耐久性・ゼロエミッション
循環
シラスのワーカビリティ
製造開発
建築
中空層二重壁
外壁ブロックは、シラスの配合を調整して材料強度を確保し、内壁ブロックは、吸放湿性を高めるためシラス原石のまま象嵌した。これを外周全体に中空層二重壁として積み上げたことで、内部への熱負荷が大きく軽減されている。さらに内壁ブロックは仕上げのまま、室内の湿度を調整している。よって夏はひんやり涼しく冬は暖かく、年間を通して安定した温熱環境となっている。
台地に蓄積された地下資源のエネルギー性能をブロックへ再生することで、環境循環型の新しい空間を提案した。
資源2 シラス+奄美土
鹿児島の住宅 2 2014-2018
本計画のために製造した2層のシラスブロック
製造開発
シラスと鹿児島の奄美土・郡山石を配合した赤土とを2層に合わせて、構造と仕上げを一体に兼ねるブロックを製造した。
試験
強度試験
組積体の許容せん断応力度は現状では建築基準法でも学会指針にも示されておらず、壁量を確保することでしか設計出来ない。しかし、せん断応力度の確認を行っておきたいため、シラスブロックのせん断試験・圧縮強度・曲げ強度の試験も上記の数値通り同時に行い、強度を確認している。シラスブロックは圧縮強度が10N/m2以上であることを確認し、2種組積造として設計する。計算上必要ないが、万が一面外方向の曲げが生じた場合を考慮して、シラスブロック内に300ピッチで縦筋を配置するようにし、そのための貫通孔を開けている。
建築
シラスブロックの組積造
2階建ての組積造の住宅である。1、2階共にシラスブロックによるロの字のコア部分があり、これらが鉛直力及び水平力を負担する計画である。また、これらの間をRCスラブでつないでおり、部分的に長期鉛直荷重のみを受ける鉄骨の軸力柱を配置する。屋根面も同様であるが、部分的に鉄骨梁を用いる。各階のシラスブロック天端にはRC造による臥梁を配置する。基礎もRC造とする。
資源3 関東ローム
目黒の住宅 2016-2020
建設発生土の未利用課題への取組み
国土交通省が実施している建設副産物実態調査(平成26年度)によると、利用土砂の建設発生土利用率は88.3%となっているが、その中身を詳細に分析してみると様々な課題が見えてくる。建設工事現場から場外に搬出された建設発生土の量は1億4079万m³3、そのうちの36%は工事間利用されている。しかし、残りの64%は内陸受入地へ搬出され再利用できていないという課題がある。この内陸受入地に向かう土砂の一部が、放置等の形で不適正に処理され、自然環境や生活環境に大きな影響を及ぼしている。
本プロジェクトでは、再利用できていない建設発生土を、内陸部工事や海面事業などの土木の分野で再利用するのではなく、新しい建築材料として建築の分野で再利用することで、新しい循環のサイクルをつくりだすことを目標としている。
関東ロームの特性
【関東ローム】
1. 特異な団粒構造のため間隙が大きい
2. 多孔質構造による吸放湿性能
3. 粘土質のためコンクリート同等の高い蓄熱性
4. 高い透水性・保水性
5. 可塑性があるため硬まりやすい
関東ロームのマテリアルフロー
東京都は2016年に建設資源循環を取り巻く状況を踏まえた新たな仕組みとして、7年前に策定した「東京建設リサイクル推進計画」を修正し、オリンピックまでに建設発生土リサイクル率95%を目指している。また、国土交通省は建設発生土の官民有効利用推進策として建設現場間での建設発生土のマッチングシステムを試行している。ただ、これはまだ公共事業の現場間でのマッチングに限定されている。そこで民間の建設現場の建設発生土をトレードしてブロックに替えられるよう、現在はそのマッチング先を探している。資源のネットワーク化を目指している。
製造開発
東京ブロック
シラスブロックと同じ技術を使い、関東ロームとセメントを配合したブロックを開発した。東京でも未利用資源が隠されていることを価値づけるため、「東京ブロック」とネーミニングしている。